可視化すべき指標が決まったら、次はいよいよダッシュボードを構築するフェーズです。ここでよくある失敗が、目的が曖昧なまま「高機能なツールだから」という理由でいきなりシステム選定から始めてしまうことです。ここでは、現場の混乱を防ぎ、確実に運用を定着させるための4つの手順を解説します。
手順1:誰が何を見るのか、目的と重要業績評価指標(KPI)を整理する
最初のステップは、「誰が」「どのような判断を下すために」ダッシュボードを見るのかを明確にすることです。同じ会社の数字でも、利用する立場によって見たい情報の粒度は異なります。経理担当者であれば日々の入金漏れや異常値の検知が必要ですし、経営層であれば全社のキャッシュフローの着地見込みといった大局的な情報が必要です。利用者の目的が曖昧なまま項目を増やすと、結局誰も見ない画面になります。まずは経営の意思決定に直結するKPIを絞り込みます。
また、ここで最も重要なのが「指標の定義を各部門ですり合わせる」ことです。前述したように、営業部門と経理部門で「売上の計上基準」が異なっている状態のままツールを導入すると、ツール上の数字が合わず、結局誰もその数字を信用しなくなってしまいます。構築前に関係部署を集め、「ダッシュボードに表示する売上は、商品を出荷した日を基準にする」「消費税は抜いた金額で統一する」といった社内の共通ルールを明確に決めておく必要があります。
手順2:データの所在を棚卸しし、連携方法を比較して決める
次に、ダッシュボードに表示したいデータが、現在社内のどこに保存されているかを洗い出します。会計システム、販売管理システム、銀行の入出金明細、あるいは拠点ごとに分かれたExcelファイルなど、データは複数の場所に散在しているのが一般的です。
当社がリフォーム工事業の企業から伺った現場の課題でも、「店舗間でデータを入れる場所は共有しない方針で管理が分断されている」という実態がありました。この棚卸し作業を怠ると、ダッシュボードを作った後に「あのデータが足りない」と慌てて探すことになります。
データの所在が分かったら、それをダッシュボードへどうやって持ってくるか(連携方法)を決めます。方法としては大きく2つあります。1つ目は、API連携(システム間連携:異なるソフトウェア同士を直接つなぎ、人の手でデータを移し替えなくても自動的に情報をやり取りできる仕組みです)を用いて自動でデータを取り込む方法です。リアルタイム性が高く手間もかかりませんが、開発コストがかかる場合があります。2つ目は、各システムから出力したCSVファイルを、定期的に手動で取り込む方法です。導入ハードルは低いですが、担当者の作業負担が残ります。自社の予算と求めるリアルタイム性に応じて、現実的な手段を選びます。
手順3:自社のIT体制に合わせてツールを選定する
データの連携方法が決まったら、ツールを選定します。ダッシュボードを構築するためのツールには、大きく分けて「BIツール(ビジネスインテリジェンス:企業内に蓄積された大量のデータを集約し、グラフや表に加工して経営分析に役立てる専用のソフトウェアです)」と「ノーコードのクラウドデータベース」などがあります。
中小企業庁が2023年に公表した「2023年版 中小企業白書」によると、中小企業がデジタル化を進める際の課題として、「IT導入を主導できる人材がいない」「導入の効果が分からない、評価できない」「コストが負担である」といった声が多く挙げられています。
社内にデータ分析の専門知識を持つ担当者がいる大企業であれば、高度な分析ができるBIツールが適しています。しかし、専任のIT担当者がいない組織で高度なツールを導入すると、少しの画面変更や設定追加すら自社で行えず、外部ベンダーに依頼するたびに費用と時間がかかることになります。IT人材が不足している現場では、プログラミング知識がなくてもドラッグ&ドロップの操作だけで画面を作れるノーコードツールを選ぶことで、現場の担当者自身が無理なく構築とメンテナンスを行えるようになります。
手順4:ダッシュボードを設計し、運用と保守のルールを明確にする
最後に画面を設計し、運用ルールを定めます。画面設計の基本は、経営層が最初に見るべき最も重要な数字(資金繰りや全社利益など)を上部に大きく配置し、スクロールした下部に部門別や商品別の詳細なグラフを配置することです。人の視線の動きに合わせて、一目で全体像がつかめるように工夫します。
そして、作って終わりにしないためには、以下の運用ルールを具体的に決めておく必要があります。
- データの更新タイミング
「毎日17時に前日の実績を反映する」「月次決算が確定した第5営業日に確定値へ切り替える」など、いつの時点の数字を見ているのかを明確にする。
- 入力・修正の権限管理
「各拠点の責任者は自店舗のデータのみ入力できる」「過去の確定した月のデータは、経理管理者以外は修正できない設定にする」といった権限を定める。
- 定義変更の手続き
「新しい商品カテゴリを追加した際、誰がダッシュボードの集計条件を変更するのか」という保守の担当者を決めておく。